尾引 浩志 | Hiroshi Obiki

倍音音楽家

モンゴルの北西に隣接するトゥバ共和国に伝わる「ホーメイ」という唱法で歌ったり、倍音を響かせる面白い楽器をあやつる音楽家、尾引浩志(おびきひろし)さん。ご自身の音楽家としての活動やワークショップのこと、興味のあるものについてお伺いしました。

尾引さんは、ホーメイや口琴など、ユニークな音を使った音楽活動をされていますね。ホーメイとの出会 いや、これまでの活動などを教えてください。

― 倍音に見せられて、倍音の響きをたくさん使った音楽をやっています。ホーメイだけでなく、口琴ギルという弦楽器の演奏もします。
昔はニューウェーブが好きで、バンドで歌っていました。あるとき、二つの音を同時に発するホーメイという歌があると知って、ホーメイ奏者が来日したときにワークショップを受けたり、どんどんはまっていったんです。日本の能と同じで、ホーメイには現地の言葉、トゥバ語の歌詞があります。意味を理解して歌うことに憧れもありますが、好きな音楽もやりたかった。なので、ホーメイの歌い方を習得して音楽家の自分の表現に繋げていきました。聞いていてとても心地良いし、表現したいものを、置き換え不要でそのまま吐き出すかんじです。

日本では珍しい音楽ですね。異なる文化の音楽をご自身の表現に取り入れていらっしゃる尾引さんが、どんなものに囲まれて生活しているのか、気になります。インスピレーションを受けるもの、興味のあるものなどを教えてください。

― 僕は好奇心が強くて、なんでもやってみたくなるんです。たとえば発酵食品作りは長いこと続けています。いろいろ作ってきましたよ。味噌も作るし、最近はザワークラウトとか…。突き詰めると面白いです。ちなみに、今トリオのバンドをやっているのですが、「醸す(かもす)」って言います。民族音楽やホーメイを取り入れたサウンドを醸しています! あと、最近口琴作りをはじめました (口で音程をとる楽器)。はじめて2、3週で、10本作りましたよ。完成するたびに発見があり、少しずつよくなるんです。いつか壁にブチあたるとは思いますが、今は楽しいです。

ワークショップを定期的にやられていますが、ワークショップの醍醐味はどういうところでしょうか?

― はじめてのホーメイとの出会いがワークショップでした。そこで、同じものに興味のある仲間が増え、発見があったり、世界観が広がったんです。今のようにファシリテーターになるとは思っていませんでしたが、やってみたらいろいろな人が集まってコミュニティができていった。プロのミュージシャンにならなくても、聞いてみていいなと思ったらやってみて、下手でも上手くても、楽しければその人にとっていい音楽。だれでも演奏できるワークショップみたいな場はどんどんあるといいなと思います。たとえば今主催している口琴ワークショップは、マニアックだけど興味を深く持ってくれる人がいるので、一緒にやっていると楽しいです。僕は、口琴を誰かに習ったことはないんですが、これまで漠然としていたものが人とやっているうちに、“こうやるとこういう音が出るんだ”、みたいな発見がある。受けに来てくれた方に、どうやって音を出すか聞かれてはじめて客観視して、改めてわかるんです。みんなでやっていると楽しいですよ。ワークショップは、自分の遊び場を作っているような感じです。

最後に、尾引さんの座右の銘をお聞かせください

― そんなに大それたものではありませんが、”置かれている状況を、楽しむ”。それは意識してそうしようと思っているのではなくて、気付くと楽しんでいる。座右の銘というよりも、僕の性格のような気がします。

【後記】
尾引さんが今はまっているという口琴作り。インタビュー中、手作りの口琴コレクションを、実際の演奏とともに見せていただきました。素材によって、それぞれに違った味わいの音を醸し出す口琴。だれにでも楽しめる手のひらサイズの楽器ですが、さまざまな音色を作り出せる、奥深い楽器でもあるそうです。 音楽だけでなく、さまざまな味わいを“醸す”ものを突き詰めていらっしゃる尾引さん。今後の活動にも注目です。

(インタビュー:石田真弓)

尾引浩志
南シベリアトゥバ共和国に伝わる倍音唱法「ホーメイ」、手のひらに入る小さな倍音楽器「口琴」などを操る倍音音楽家。倍音楽団「倍音S」(バイオンズ)の活動を経て、06年にはNHK教育テレビの幼児向け音楽番組「あいのて」にレギュラー出演。エキセントリックな番組として話題を呼ぶ。能楽家、ダンサーなどとの共演、演劇の舞台での演奏、音遊びのワークショップなど、ジャンルも国境も飛び越えて活動中。2016年、音を「醸す」楽団「KAMOSU」結成し、絶賛醸し中!